アーク灯

アーク灯

アーク灯

電圧の放電によって二本の炭素棒間に発生する光を発見したのはイギリスのハンフリー・デーウイという化学者だった。 以来この光はアーク灯と呼ばれているが、このときは実は燃焼の光だった。電極である炭素粒子が空気のなかで白熱して燃え尽きるからで、その後照明として使われたデュポスクアーク灯なども、炭素棒がいわゆるローソクの芯の役割をになっているといえる。しかも電極間の距離を適切に保たないとアークが維持できないことから、実用面ではなかなかむづかしい技術を要したようだ。

とはいえ、いままでにない光量の光に当時としては画期的なことで、太陽の再現だともてはやされた記録がある。現代の放電灯の基になる光であるが、点光源にもっとも近いことで、映写機の光源に適していて昭和30年代まで使われていたそうだ。その後はキセノンランプにかわってしまい、いまは過去の光源になってしまったと思いきや、このアーク灯は今でも意外なところで使われていたのだった。

アーク灯のスペクトルは太陽光線にたいへん近いことから、屋外照明にさかんに使われていた頃、この灯りの近くに浮浪者がたむろしていて、不思議と皮膚病が治っていくことをみつけたフィンゼンはアーク灯を改良した治療器をつくり、のちのノーベル賞受賞の基礎をつくったそうである。フィンゼン灯といわれる光線治療器は、現在でもいろいろな形をかえて生き残っていたのである。

この話しを聞いて、新大久保の光線研究所を訪ねたことがあった。長く光線治療の研究と、実際の治療をしているところであるが、この治療に自社製のアーク灯が活躍している。 30cmぐらいの球形の投光器のような中に2本の炭素棒が平行につけられ、一旦接触させてアークを発生させ、その光線を患部にあてるのだそうだ。何種類かの炭素棒に種類があって、組み合わせでアークのスペクトルが異なるらしく、症例に応じた選定をするそうだが、この灯具がまったくアーク灯そのものなのには驚いた。 照明器具としてのアーク灯は国立博物館や東京電力の資料館で見る事ができるが、照明文化研究会の笹尾局之氏がデユポスクアーク灯を復元され、実際に点灯できるようになっているというので、おしかけて点灯状態をみせてもらった。いまでは炭素棒がなかなか手に入らないそうで、わずかな時間であったが、なんとも郷愁を感じさせられるヒカリであった。

   

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